ソフトウェア開発における従来の王道プロセスは、まず要件を整理し、ワイヤーフレームを描き、Figmaなどのデザインツールで画面を完成させ、それをエンジニアがコードに落とし込み、最後にテストを行うという段階的なステップ(ウォーターフォールやスプリント)を踏むのが常識でした。
しかし、AIエージェントがコード生成を担うようになった現在、私たちはこの従来型の開発ステップそのものに疑問を抱くようになりました。画面の仕様書や静的なデザイン図を何時間もかけて作り込むよりも、AIを使ってその場で動くWeb画面をコードとして生成させ、自分自身で実際に操作しながら直感的に修正を加えていく方が、遥かに速く圧倒的に質の高いプロダクトに仕上がることに気づいたからです。
「作る→試す→直す」というループをその場の数分間で数十回転させる「即時タッチ&修正開発」の実践と、それによって変化したUI/UXデザインの感覚をまとめます。
試したこと:静的デザイン作成の全廃と「コード直触り」開発
私たちは、新しいWebサービスやツールの開発において、事前にFigma等のデザインツールで静的な完成図を作成する工程を完全に廃止してみました。
代わりに、以下のサイクルで開発を進める実験を行いました。
- 一言の概念から即コード化: 「こういう課題を解決するシンプルなダッシュボード」という大枠の指示をAIに与え、最初から動作するReact/HTML/Tailwind CSSのコードを出力させる。
- 実機ブラウザでの即時タッチ: 生成された画面をローカルサーバーで起動し、実際にマウスやスマートフォンでボタンを押し、テキストを入力して触感を確かめる。
- 触った瞬間の違和感をそのままAIへ口頭フィードバック: 「このボタンの位置は指が届きにくいから右下へ動かして」「入力後のフィードバックが遅くて不安になるからローディング表示を入れて」といった直感的な不快感をその場でAIに伝え、数秒でコードを修正させる。
デザイン図という「静止画の予測」を挟むのをやめ、動く「実物の触感」に対してその場でAIと即時フィードバックを回し続けるアプローチです。
実験の中で観察された変化と発見
この超高速ループを試す中で観察された最大の発見は、「画面の見た目の美しさ」と「実際に触った時の心地よさ(手触り)」の間には、決定的なギャップが存在するという事実でした。
静的なデザイン図の上では非常にスタイリッシュで整って見えたレイアウトであっても、実際にブラウザでデータを入力し、画面遷移を体験してみると、「次に何をすればいいのか一瞬迷う」「ボタンの反応が硬くて気持ちよくない」といった細かなストレスが次々と浮き彫りになります。
従来の開発手法では、こうした「触ってみて初めて分かる違和感」は開発の最終段階(QAテストやユーザーテスト)まで発見できず、手戻りコストの高さから妥協してそのままリリースされることが多々ありました。しかし、最初からコードで動かし、触った瞬間にAIに指示を出して数秒で修正できる環境下では、UI/UXの細部が狂気的なスピードで洗練されていく様子が観察されました。
| 開発手法 | 設計確認の媒体 | 違和感の発見タイミング | 修正にかかるコスト | UI/UXの最終的な質感 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 従来型ステップ開発 | 静的デザイン図 (Figma等) | 開発終盤のテスト段階 | 非常に高い(手戻り発生) | 見た目は綺麗だが、触感が硬い |
| 2. 即時タッチ&修正開発 | 動くコード・実機画面 | 操作したその瞬間(即時) | 極めて低い(数秒で修正) | 直感的で指に吸い付く心地よさ |
「画面のデザイン」と「コードによる手触り」の決定的な乖離
デザイナーが画面上の静止画としてピクセル単位で整えた美しさと、ユーザーが実際にデータを入力し、アニメーションの速度を感じ、エラー表示に直面した時の「体感的なUX」は別物です。
動くコードをその場で直触りしながら開発を進めると、「見た目は地味だが操作が圧倒的にスムーズ」「アニメーションを0.1秒短縮するだけでストレスが消える」といった、静的デザインツール上では絶対に気づけない手触りのリアリティに即座に到達できます。デザインという作業が「描くこと」から「感触をチューニングすること」へと変化したのです。
プロトタイプから本番運用へのリファクタリング戦略
高速でコードを書き換え続けると、どうしても裏側のコード構造が散らかり、スパゲッティ化するリスクが懸念されます。
私たちは、この即時タッチ修正で最高のUI/UXの感触を確定させた直後に、AIに対して「機能と見た目の挙動を1ミリも変えずに、コードを美しいコンポーネント構成へとリファクタリングせよ」と命じるステップを設けています。人間が感触を研ぎ澄ますフェーズと、コードのクノロジー的クオリティを整えるフェーズを分離することで、爆速の試作と高い保守性を両立させることができました。
実践の中で生まれた独自の思考と美学
「作ってすぐ触り、即座に直す」という超高速回転の開発スタイルは、製作者自身のデザインに対する美学や判断軸にも大きな変化をもたらしました。
仕様書やドキュメントで理詰めで論理構成を組み立てること以上に、「人間が触れた瞬間に生じる生の感情や違和感」を何よりも信頼するようになった点です。「論理的には正しそうだが、触っていてなんとなく心地よくない」と感じた場合、その直感を無視せずにその場でコードを書き換えさせる。この直感優先の検証を圧倒的な速度で回せるようになったことこそが、AI時代の開発における本質的な進化であると感じています。
デザイン思考やリーンの考え方をベースに持ちつつも、机上の論空論で会議を重ねる時間をゼロにし、現物のプロダクトとの対話に全ての時間と情熱を注ぎ込む。この泥臭くも圧倒的なループ回転こそが、人の心を動かすプロダクトを生み出す原動力になります。
まだ答えのない問い
しかし、試作と修正のスピードが無限に上がることによる新たな課題も見えてきました。
あまりにも手軽に画面や機能を書き換えられるため、その場の直感的な修正を無計画に繰り返しすぎると、プロダクト全体の一貫したデザインルールやデータ構造の美しさが徐々に破綻していく「ツギハギの複雑化」に陥る危険性があります。
「その場の感覚的な修正スピード」と「プロダクト全体の美学やアーキテクチャの整合性」をどのように両立させるべきなのか。高速回転する開発ループの中で、人間が保つべき全体俯瞰の視点とはどうあるべきかという新たな問いに向き合っています。



